こころの情報学

こころの情報学 (ちくま新書)

こころの情報学 (ちくま新書)

「情報と心の関係」をテーマにした本。


「情報」とは何か、「心」とは何かということに関する、深い洞察を行っているが、決して難解ではなく、初心者にもわかりやすく解説している。


まずは情報学の紹介から、情報学は、一般的に「情報」という語幹から連想されるような、コンピュータサイエンスの一分野ではなく、もっと広く情報というものについて捉える、文理横断的な学問分野。


工学では普通、情報とは複数の事象から、どれが起きたかを示すもののことをさす。

これはクロード・シャノン情報理論によるもので、これによってデータの圧縮とか、通信工学などの分野が大きく発達してきた。

しかし、著者はシャノンの情報理論が多くの誤解を生んでいるとし、情報について次のように定義する。

情報の定義:それによって生物がパターンをつくりだすパターン。

パターンをつくりだすパターンってなんだ?てな感じになるが、つまりはそれによって生物が意味を見出すパターンのこと。

情報は生命にによってしか存在し得ない、そのことを誤ると間違った方向(第5世代コンピュータとか人間機械論とか)に進んでしまうというわけ。


「心」を理解する手がかりとして著者が着目しているのが、神経生物学者であるウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレラによる「オートポイエーシス(自己創出)理論」。

マトゥラーナによれば、神経系は神経細胞の相互作用による「閉じたネットワーク」であり、自己回帰的・自己言及的に、みずからの構造を作り続ける。このようなシステムを「オートポイエーシス・システム」と名づけた。

著者によれば、心も「思考」という構成要素を生み出し続けるオートポイエーシス・システムであり、社会もまた、「コミュニケーション」*1という構成要素を生み出し続けるオートポイエーシス・システムであるという。


オートポイエーシス理論についてもっと知りたくなった。難しそうだけど。

*1:「人」ではないことに注意。