電波利権

電波利権 (新潮新書)

電波利権 (新潮新書)

エコノミストであり、アルファブロガーでもある池田信夫さんの著書。


実質的に数兆円程度の価値があると推定される電波が、日本ではほぼ無償で各事業者に割り当てられているなど、電波に関する不条理の多いことに唖然とさせられた。


中でも無線機一台ごとに徴収される電波利用料は、電波利用のゆがみを最も端的に示していると著者は指摘する。


携帯電話の電波の割り当ては全体の11%であるが、電波利用料全体のうち、携帯電話が端末と基地局合わせて93%以上負担している。一方で、放送は8%の割り当てに対し、利用料は1%あまりである。


電波利用料は、電波を効率的に使うほど利用料をとられる仕組みになっており、効率的利用に対する「逆インセンティブ」になっている。


そして、9割以上を携帯ユーザーが支払っている電波利用料の大部分は、地上デジタル放送の「アナアナ変換*1」に使われる。


地デジに関しては、利用者にもメーカーにも、放送局にもメリットはないのだという。民放はデジタル化したからといって広告料を上げることはできないし、NHKもデジタル化で受信料を上げることはしない。

「コストが1兆円以上で収入増がゼロ」というプロジェクトが、資本主義社会で進行しているのは驚くべきことだが、その結果は当然、大幅な赤字である。民放連(日本民間放送連盟)自身の試算でも、デジタル放送の開始後、とくに1980年代以降にできた新設地方局が大幅な赤字に転落し、その赤字幅はずっと続くという結果が出ている。


現在、総務省はモバイルWiMAXなどの高速通信のために2.5GHz帯の割り当てを審査している。ウィルコム、オープンワイアレスネットワーク(イーアクセスソフトバンクなど)、ワイヤレスブロードバンド企画(KDDIなど)、アッカ・ワイヤレス(アッカ・ネットワークス、ドコモなど)の4陣営が免許を申請しており、このうち2陣営に免許が与えられる予定だが、総務省が何を基準として審査を進めるのか、なかなか見えてこないまま、ウィルコムKDDIの2陣営が有力という報道もある。


著者も主張しているように周波数オークションを導入するなど、もっと透明性の高い方法でやり直すべきじゃないだろうか。

*1:デジタル放送に割り当てるUHF帯の余裕がない一部の地域で、すでにアナログ放送でUHF帯を使っている局の周波数を変換する作業