辻仁成「アンチノイズ」

「音の環境地図」っていうのはとても面白いと思う。視覚による街の景観っていうのはよく意識されることだけれど、街の音の環境はあまり気付かれない。でも実際には街の中の音って人間にとってすごく重要だと思う。
この小説の面白いところはそれだけではなくて、恋人とうまくいっていない主人公がよく会っているマリコが、実はアマチュア無線の知識を使って盗聴器なんかの電波を傍受していたり、友人で調律師の郁夫がピアニストである妻と、息子に教えるピアノのピッチの違いの問題で離婚にまで発展したり、さらに主人公自身が恋人の留守電を「盗聴」していたりと、それらのエピソードがうまく絡み合っていることがとても面白いと思う。