電子マネーはだれのためか?

1枚のカードや携帯電話をただ読み取り機にかざすだけで、どんな場所でも買い物ができ、電車やバス、タクシーや飛行機にも乗れてしまう。さらには、わざわざ店に行かなくても携帯電話で商品を選び、その場ですぐ買うことができる。
現金などはもはや過去の遺物でしかなく、紙幣や貨幣の流通量はほぼゼロに等しくなる・・・。



そんな時代がやってこようとしているのでしょうか?



最近、電子マネーが盛り上がってきました。


先月、東京の私鉄とバスで使えるPASMOが開始され、JR東日本が行うSuicaとの相互運用によって、1枚のカードだけで東京都区内ほぼ全域の移動が可能になりました。すでに恩恵を受けている方も多いかと思います。


また、別の新しい電子マネーも次々と立ち上がっています。今月末にはセブン&アイ・ホールディングスによる独自の電子マネー"nanaco"が始まります。またつい先日、対抗するイオングループが"WAON"を発表しました。


先発のEdyやiD、QuickPayといったサービスと合わせて、電子マネー戦国時代といった様相を呈しています。


しかし、この状況は消費者にとって好ましい状況では決してないと思います。


現状では、電車に乗るときはSuicaを取り出して、コンビニではEdyを取り出して、ってな感じで、たくさんのカードを持ち歩かないといけません。


今までもクレジットカードやポイントカードでサイフは一杯になっていたのに、そこにさらに電子マネーが加わってさらにひどい状況になりかねません。


おサイフケータイであれば媒体は携帯電話1つですが、カードを取り出す代わりにEdyとかSuicaのアプリを立ち上げてって感じで、カードで持ち歩くのと手間は大して変わりません。*1


それに携帯の電池ってよく切れますし、充電のし忘れもあります。僕もしょっちゅう携帯の充電を忘れて、いざ使おうとしたときに電池が切れてしまって焦ったことが何度もあります。


モバイルSuicaで電車に乗ろうとしたときに携帯の電池が切れていたら、しかも現金も持ち合わせていなかったら・・・。


どうしてこういう状況になったかは、結局は消費者のニーズと事業者の戦略が必ずしも一致していないためでしょう。


消費者が望んでいる(あるいは信じている)のは冒頭に述べたような、完全なキャッシュレス時代の到来ではないでしょうか?


しかし事業者が欲しているのは、顧客の囲い込みと顧客情報でしょう。


顧客の囲い込みが目的である以上、電子マネーの運営主体である事業者としては、1枚の電子マネーが全ての場所で使えてしまうと意味がなくなってしまうのです。


現在のように多くの電子マネーが乱立する状況で、それらのカード全てに対応させるには多くの読み取り機を置かないといけないので、店側にとってはコスト面の問題もありそうです。


しかし実はこれらの電子マネーは全て、Sonyが開発したFelicaという規格を使用しています。
運営主体やサービスの内容こそ違えど、読み取り機などのインフラ部分は同じなのです。


ハード的にはFelicaで共通なんだから、読み取り機の共通化ぐらいはなんとかなりそうですが、この辺りは一体どうなのでしょう?


また、電子マネーの導入によって得られる顧客情報は膨大です。


例えば、JR東日本Suicaを使用している乗客について、いつどこで乗り、どこで降りたか、という乗車履歴を、その人がSuicaを最初に使った日まで遡って得ることができます。

これは無記名のSuicaでも一緒です。非接触ICカードの特徴の1つはそれぞれのカードに固有の番号が振られていることなので、その番号が一致する履歴を調べれば、たとえば先週月曜朝9時に横浜から新宿まで乗った人と、日曜の昼12時に横浜から秋葉原まで乗った人は同一人物である(可能性が高い)ということが言えるわけです。


要するに、切符だと「月曜に横浜から新宿まで」という情報と「日曜に横浜から秋葉原まで」という情報はそれぞれバラバラに存在するのみですが、Suicaを使うと番号といういわば「ヒモ」で結び付けられるわけです。


また、乗車履歴だけでなく、いつどこでチャージしたかや、キオスクや自販機での買い物、コインロッカーの使用に到るまで、1つのヒモで括ることができるわけです。


もちろん、記名式のカードであればその人が何らかの都合でカードを変えても、名前を変えない限りは結びつけられるので、そちらの方が得られる情報は膨大になります。


これは技術的に可能と言っているだけで、JR東日本が実際にどこまでやっているかどうか、僕は知りません。ただし、営利企業としては顧客の情報は最大限得たいものでしょうし、それ自体は悪いことではありませんが、それが顧客の利益になるかというと、必ずしもそうは言えないと思います。(顧客情報によって今後のサービスより良いものになって行けば顧客の利益になりますが、電子マネーを使う上での直接的なインセンティブにはなりません。)



となると当然、プライバシーの問題も気にかかります。

この問題についてはまた改めて書こうと思います。

*1:僕が勘違いをしていました。コメントで指摘してもらいましたが、EdySuicaのアプリをわざわざ立ち上げる必要はないようです。